好きなように生きようよ
私の武道を通じた友人に、Kさんという方がおられます。彼は二カ所の道場で、責任者として居合道の指導を行っています。ご本人に了解を得ているので実名を挙げても問題ないのでしょうが、止めときます。やたらと実名を挙げると、警戒されて世間が狭くなっては困るからです。(おい、谷に下手なことを言うな、HPで書かれるぞ!)
彼は結婚をしていますが、子供はおりません。作ろうとしないのか、出来ないのかは興味のらち外なので聞きたいとも思いません。
前置きが長くなりましたが、彼は本身の大刀、小太刀をあわせて13振り所有しています。それだけではなく、薙刀、槍まで持っているらしいんです。これって絶対変ですよね。そこで私が質問しました。
「Kさん、幾ら何でも13振りは多いんじゃないか。購入金額で一千万円ぐらいかかっただろう?」
「いえ、そんなにはかかりません。ぜいぜい七、八百万円ですよ」
「似たようなもんだ。いいかKさん、七百万円を女に騙し取られたのだったら、世間は納得する。しょうがない奴だと言われるかも知らんがな。しかし、あんたの歳で刀剣に七百万円かけたら、世間は変だと思うぞ。理解できないからだ。私も理解出来ん!」
「変ですかね?」
「変だ、変だ、絶対変だ! 今だってそうだろ、居酒屋で飲むのに何故、和服に袴姿なんだ!」
「いえ、これ楽なんですよ。見て下さいこの生地を」
なるほど、確かに柔らかそうな生地でした。私はそれなりに納得しました。しかし、やっぱり変ですよね。
「自分の仕事は、IT関係の最先端の開発業務です。しかし、精根込めてやりあげた仕事が、二、三年過ぎれば使い物にならなくなり、廃棄されます。それが原因で、ストレスが溜まって仕方がないんです。ところが刀剣は違います。数百年経った、室町、江戸時代の職人の仕事が現代でも人を感動させるのです。刀剣と向かい合うことで自分は精神のバランスを取っているのです」
彼は米国のテキサスに本社を持つIT企業日本法人の幹部社員です。
さて、私はKさんの言葉をそのまま信用してはおりません。仕事でストレスが溜まるのは誰でも同じ事です。かく言う私もストレスからHPや武道に走るとも言えるでしょう。まんざら嘘とは言えませんが、好きだからと言った方が間違いなく、本音に近い気がします。
Kさんも好きだから集めているのに違いありません。(理屈を言うんじゃないよ!)
しかし、その程度が並ではありません。ただ言えるのは、IT関係の仕事はあまり好きでないだろうと推測出来ることぐらいです。
漏れ聞くところによると、他の骨董にも強い興味があり、古物商の免許も持っているようです。もしかしたらこの男、本当に古物商になるかもしれない。
好きなことを仕事にする。仕事は生活の糧を得る場で、本当に好きなことは仕事にしない。
二つの相反する生き方があります。どちらが幸せか? そんなもの客観的に分かるわけがありません。自分で決めれば良いのです。しかし、どちらも犠牲を伴うことは事実です。さらに犠牲の伴わない人生なんてあり得ません。
生きることは悲しいことです。愉しいこと、ホッとすることもあります。しかし、一時的なもので又、辛く悲しい日々が続きます。では、何故生きなければならないのか?
単純なことです。生まれて来たからです。
彼は、先日、アラスカのユーコン川にラフティング(ゴムボートによる急流下り)に行ったようです。まあ、ホントに色々やりますなぁー。
そして、ラフティング関係の素晴らしいHPを開いています。しかし、ここで紹介することは出来かねます。なぜなら本人の実名が特定できるからです。ご希望の方が居られましたらメールを下さい。こっそりお知らせします。
居合道、杖道、そしてラフティングに於いて、私は彼の大先輩になるはずです。(実力は問題なく彼が上です)しかし、悲しいことに彼は私にまったく敬意を払ってくれません。
実はわたくし、日本におけるラフティングの先駆者なのです。機会があったらこの件についても書いてみたいと思っています。昭和40年代当時、設立した会の名称はANBAK(アンバック)、オールニッポン・ボートアドベンチャークラブの略称で、会員40人を擁していました。そして、何と会長は私なのです。
社会人のラフティングクラブとしては、日本で最初ではないかと思います。
富士樹海の探検で知り合った、神奈川大学探検部に招待されて、鬼怒川で開催された第二回東日本学生急流下り選手権に、唯一の社会人チィームとして特別参加し、上位入賞を果たしました。(正確な順位は忘れました)
大会出場を切っ掛けに我々は、ANBAKを結成しました。
後日談として、熱心に我々を、大会出場に誘ってくれた神奈川大学探検部の学生二人は、富士川の川下りで命を落としました。 合掌。
私は、三十代まで間違いなくアウトドアーを指向していました。大空と大地、海原に憧れて、様々な行動をしました。しかし、遅まきながら40歳にして悟りました。俺はインドアーな人間なんだと! 妻は言いました。「当たり前じゃないの、本当に今まで気づかなかったの?」
“町内で 知らぬは 亭主ばかりなり”(俳風末摘花より)
Kさん、好きなように生きようよ。確かに貴殿には、人もうらやむ学歴とIT関連での能力があります。刀剣、書画骨董が好きなのも分かります。連れ合いのことも気になるでしょう。辛いところですよね。
好きなように生きようよ、と言いましたが訂正します。人間は、好きなようにしか生きられません。
結果的に好きなように生きているのです。自分を鑑みてそう思うのです。
最後に、Kさんお願いですから居酒屋に飲みに行くとき、和服で行くのは止めて下さい。場所をわきまえて下さい。恥ずかしいったら、ありゃしない。
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