ヒトシの部屋




「誰なの」その二

さてー。

空手における仮想敵国はいったい何かについて、
新垣先生という方がお書きになっている「沖縄武道空手の極意」という本がある。
この本によると、沖縄空手の一流派が想定しているのは、相手が刀であるというのだ。

沖縄の空手は、大きく3派に分類されている。

首里手(しゅりて)・那覇手(なはて)・泊手(とまりて)
標準語的なフリガナはご勘弁願いたい。

この中でも、よく対比されるのが首里手と那覇手。
簡単に言うと、首里手は松濤館空手などの基礎となった流派である。
一般に素早い動きからの突き・蹴りが基本となっている。

これと比較されるのが那覇手で剛柔流の基礎となった流派である。
こちらは首里手に比べてどっしりと構えた状態での突き・蹴りが特徴であり、
スピードよりも重さ・パワー重視という感じを受ける。

さて、この説明だけでも、どちらが刀を想定しているか分かると思う。

問題です。
あなたが小春日和の公園で、素っ裸で刀振り回してる方に遭遇したとしましょう。
どうしても空手の技でお相手しなくてはいけない場合、あなたはどちらの技が適当と思います?

相手がもやしのようにひ弱そうでも、持っているのは触れば切れる日本刀。
やはりスピードを重視する首里手のような戦い方を選ぶのでしょ?
刀の間合いの外から、一気に距離を詰め、顔面又は急所をねらって速攻の突きで倒す。

一撃必殺とするならば、やはりボディーよりは顔面。
ただ、顔面を殴るというのではなく、正確に突くというのは以外に難しい。
これは経験者の方はおわかりだと思う。
首を少し振った程度で、いわゆる急所の位置はかんたんにずれてしまうし、かする程度でかわされてしまうからだ。
となると相手がかわせないほどのスピードが必要になる。

つまり、相手の懐に飛び込むにしても、突くにしても対刀である以上切られないためにはスピードを重視せざるを得ないのである。

こういった理由から、首里手の突きはスピードを高めるためにムチのようにしなるものであるという。
そして、ボディービルダーのような筋肉はかえって邪魔になる。
突きのスピードを殺さないようにするには、屈筋を過度に鍛えても意味がない。
空手以外の武道関係の本でも、そんな話を目にしたことがある。

また突技も、普段我々が考えるような軸をずらさないまっすぐな突きにはならないそうだ。
かならず「ぶれる」という。
確かにムチのようにスピードを伝えようとすれば、拳の先はぶれるであろう。

なるほど、そういうふうに考えていたのかと私はミョーに納得したのである。
というのは、糸東流で教わる空手型の中にバッサイ大とセイエンチンという型がある。
初段前になるとこの二つの型を中心に教わるわけだが、この二つがとても対照的な型なのである。
バッサイ大ははじめの構えから、大きく前に飛び込んで支受け(ササエウケ)という受けで前から来た敵の突きをはじき飛ばす。(この飛び込む動作には非常に大きな意味があると思う。)
かたやセイエンチンは、呼吸法と共に四股立ち(シコダチ)になりながら、ゆっくりと両手の手刀で下段を払っていく動作で始まる。

前者は首里手の型であり、後者は那覇手の型である。

同じく沖縄空手から発祥していながら、何故これほどまでに違うのかがずっと疑問であったのだ。
してみれば、この本の中で新垣先生のおっしゃっていることは、なるほどなのである。

他方、接近戦を重視する那覇手は、相手が素手またはそれに近いものを原則として想定しているのであろう。
体を鍛えて近距離で殴り合うというのは、対刃物では考えにくい。
しかし、素手対素手の近接戦闘では効果を発揮するはずである。

そう、まさに極真空手のスタイルの源流には那覇手があり、剛柔流があるではないか。
ただ、本来は近距離で大きな威力を出すための技、中国拳法の寸勁のような技を使用するのであろうと思われる。

こうなってくると、それぞれの流派ので固有の技術、おそらく埋もれ又は隠れているのであろうそれに興味津々である。
那覇手が近接戦闘であれば関節技もあるだろう。
首里手にしても徒手空拳であれば、武器を奪うためのそれがあるかもしれない。
ゆくゆく、それらについて思うところを書いていこう。

ちなみに師匠や私が稽古している糸東流は、上記二つの流派を、昭和の初め摩文仁賢和(マブニケンワ)先生が統合させて創設した流派であるので、双方の技が混在するという流派である。

と、こんなところで今回は終わるのですが、まあ手始めと言うことで。

ところで、公園で刃物持った素っ裸の人に遭遇した場合の本当の正解は、

逃げる、又は、まざる。

であって、「来なさい」などといって、両手を広げるのはもってのほか。
大声あげたりフラッシュなど決してたいてはいけない。
まして鳩ではないので餌づけもやめておいたほうが無難である。
なお、「まざる」は高等テクニックではあるが、捕まるか病院に入れられるおそれもあるので注意されたい。

皆様のご健康とご長寿を祈り、楽しく武道を始める一年にしたいものだ。

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以下の文献を参考にさせていただきました。

参考文献 「沖縄武道空手の極意」 新垣 清 著  出版社 福昌堂

興味のある方は、是非ご一読下さい。


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