ヒトシの部屋




回し蹴りシンドローム


新年あけて師匠、2本目の小説も絶好調(?)。
最近では稽古する暇どころか××をする暇も惜しんで、
知的好奇心お盛んな限り。
(××については諸説あるだろうが師匠の名誉のためにいわせてもらうなら、けっして○○とか、いわんや×△○ではない)
当分はやはり私が書くしかなかろ。

さて、新年あけて一貫堂六本木支部は本調子ではない。

タクロウ・ケンジ・マリコさん一家はマリコさんの仕事が忙しいらしい。
お休み。

タイスケ氏はまるで呪われたように杖の稽古にいそしんだのが祟ったのか、
(祟るも何も呪われてんだから)体調不良とのこと。
(「一日も休まず武道の稽古をするなぞ健康に悪い。何考えてんだ。」師匠語録より)
お休み。

エジーマは仕事忙しいのと花粉症の季節到来らしい。
お休み。


というわけで、本日の参加者はくそまじめなヒロシ氏と小型ボブサップのアサイッチ。
それと小学2年のワタル。
ワタルはあいかわらず、道着の背なでヒヨコの入墨(アップリケだってば)がピヨピヨ鳴いていてかわいい。

「さて今日はどうしようか?」
ここのところ審査があったこともあって、型中心だった。
一つ、組手中心にやろうじゃありませんか。

「じゃあ、君たちは一本組手やった後、自由組手やって下さい。」
師匠はいつものとおりワタルに稽古をつけにいく。

残ったのは、クソマジメとボブと口達者。
口達者は、おかげさまでみんなより帯が格上。
「はい、ヒロシさんアサイッチ、一本組手始め!」
なんかいって、あげーのこげーの祝詞でも奉っていればよろしい。
ああ長いことやってて本当によかった。


さて、一本組手も終わって自由組手のお時間です。
今日は面もつけて何でもアリアリ。

だが大きな問題が一つある。
ボブは今日が自由組手デビュー。
空手の技術ははっきりいって、まだまだといっていい。
でも、技術がどうあれボブである。
本物は腕ブン回すという原始の力だけでテクニシャンのホーストをボコにした。
ここにいるのは縮尺何分の1スケールのボブである。

誰が相手をするのか?

本来、身長・体重・腕の太さ・体格的に釣り合うのはタイスケ氏である。
しかし、氏は予知夢でも見たのか今日はいない。

師匠を見る。
じっと見る。
師匠は視線を合わさない。
じっと合わさない。

「あの、師匠・・・」

刹那、

「俺は、あの一戦で引退した。」

突然、誰に話すでもなく引退を表明された。

あの一戦ってなに?
ここにいるあんたはだあれ?
ついこの前、戦車みたいな嶋田先生とガチンコやったでしょうが!!

「いや、俺は引退した。」

多分、いつでもできる禁煙と一緒だなとは思うが、
そこは師匠であるし、こう言ったら子供と一緒で、テコでも、アメでも動かない。
となると、生け贄はクソマジメか口達者である。

「ま、とりあえずお手本やんなさい。」
生け贄同士の自由組手が始まった。
そういえばローマの奴隷ってこうやってライオンとかと戦う奴決めたんだよな。
師匠の新しい小説も、なんか奴隷の話だったよな。
これって、取材?

そんなこんなで、悲しくも生け贄同士の儀式は終了。

「はい、次アサイッチ、ヒトシ。」
こういうとき、どうあれ帯が上のほうが生け贄になる。
今の試合は本当に、ただの闘鶏だったようだ。
長くやってればやってたでろくなことはない。

さて、恐怖の対ボブ戦。
ボブは前述のとおり今日が初めて。
経験者の方はおわかりと思うが、
だいたい、初めての自由組手なんてお猿のケンカになるのが世の相場。
体は動かないは、リズムはとれないは、てんでさまにならない。
はずである。

だってのに、ボブは顔の前にで手を軽く広げるやいなや、
軽やかにリズムをとりだした。
ステップまで踏んで、往年の猪木かマサ斉藤か。
ッシャーこの野郎!状態。
あんた、なに戦闘慣れしてるの?

とおもったら、ブンと回し蹴りが飛んできた。
しかもリーチは短いけど、きれいに足が伸びた奴。
間違えてカウンター喰らったら、間違いようもなくどっか骨が折れる。
力積が違いすぎ。

小太郎氏に引き続き、冗談ではない!!絶対いやだ!
労災の認定以前の問題である。
そう決めたら後は逃げの一手しかない。

蝶のように舞い、蜂から逃げるように逃げる。(普通は逃げないで刺すらしい)
幸いなことに、歩法ができていないからかろうじて逃げることはできる。
いいかげん逃げて、悪魔に鶏を捧げる儀式は終了。
次は、師匠だ、どう考えても師匠だ。

と、
「ワタルくーん。先生とやろうかあー?」
ニコニコ師匠は我々に一瞥もくれずにヒヨコアップリケを連れ出した。
「ソレッツ、来い。ソレソレッ!」
楽しそうだな。なんだソレ?

こうなればこっちもヤケだ。
「いけ!ワタル!やっちまえっつ、蹴りだ蹴りっ!」
世が世なら、清水の舞台から飛び降りて死んだぐらいの確率で破門であろう。

ところが、そんなワタルのきれいな右回し蹴りが、師匠の足にあたった。
「ビシッツ。」
一同刮目。

なんだ?キョウビの素人はどうなってんだ?
サンボ経験者のボブのみならず、小学2年のヒヨコまで、なんだその回し蹴り!!
しかも蹴り入れてからのコンビネーションまで。

ここにいたって、K−1とか、プライドとかの弊害は明らかである。
そうだ、ボブもヒヨコもみんな、そんな試合ばっかりみてるのだ。
どうすんだ。こんな連中3年もたったらまともに相手できなくなるじゃあないの。
師匠はパートタイムで引退とか言っても師匠だからいいけど、
本当にただの先輩である我々は前途多難である。
未来に一抹の不安を覚えた新年自由組手大会でありました。



さて、ここから本題。

ボブもヒヨコも使ったのは回し蹴り。
最近のK−1でもお馴染みだが、ローキック・ミドルキック・ハイキック、全部、回し蹴りが中心。

回し蹴りの利点としては、
1.ブン回すので力が入りやすい。つまり素人でも威力が出やすい。
2.蹴りが見えにくい。
3.避けにくい。つまり、当てやすい。
と、こんなところだろうか。

1.は回転による運動なので、特に空手の技術を知らんでも、それなりに威力が出せるということ。
これはみんなやってみれば分かる。
2.はあくまでも、身体の柔らかな人が近接戦闘から死角をついて放つ場合、または、フィリオみたいに膝の位置からしてあり得ない角度で(あの人はなぜか下からの回し蹴りが上から落ちてくる)入る場合であって、素人の回し蹴りではこの逆にとても見えやすい。
3.は素人でも同じだと思うけど、横から斜めまたは真横にナギ払うように入ってくるため、正面をずらして横に逃げるのが難しいと言うことだ。後ろに下がるくらいしかできない。

ところが、中国拳法やムエタイ(タイ式キックボクシング)ではお馴染みの回し蹴りなのに、日本の空手には本来回し蹴りがなかったという話をご存じだろうか?
もっといえば、腰から上は蹴ってはいけない。
更には蹴りをつかえば突き殺されるといった話になるではないか。
これは一体どういうことなのか。

回し蹴りの利点は否めないところであるが、このような言い伝えがあるということは何か理由があるはずである。
回し蹴りに弱点があるのか。
それともそれをしのぐ技があるのか。

次回はそのへんを考えてみましょ。
(当分このパターンで行くかな)



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