7. 規 約






   全日本草刈道連盟
 通称、全草連(ゼンソウレン)
 
第一章 名称及び所在地
   第一条 本会は全日本草刈道連盟と称する
   第二条 本会本部は○○市××町、吉田酒店におく

 第二条 目的
本会は草刈道の修行を通じて、人格の陶冶を図り、技術の向上と、
   会員相互の親睦を計ることを目的とする。
  
第三条 組織
未定

第四条 役職員
    未定

 開祖 日本武尊(ヤマトタケルノミコト)

神宝 草薙の剣

 宗家 歴代の今上天皇

 会長 宮家(現在、未定)

 段位 初段より十段までとする

 称号 錬士、教士、範士、名人


全日本草刈道連盟設立準備委員会
  会長 浅見 義彦





 「浅見さん、いらっしゃい! 待ってたよ」
 ハツエが機嫌良く迎えてくれた。浅見にとっては三日ぶりの角ウチであった。
 ビールと一緒にワープロ打ちの用紙が一枚、浅見に渡された。それが、前ページの文章である。
浅見はコップ一杯のビールを喉に流し込むと、紙に眼を移した。
「全日本草刈道連盟。会長、浅見・・・・いったい何ですこれ」
 「落ち込んでいるんだって、話しは学者から聞いたよ、俺も協力するよ」
 勝さんは、微笑みながら話しかけてきた。
 いまいち、浅見には良く解らない。『全草連』てそもそも何だ?
 しかも、設立委員会の会長だと?
 「浅見さん、このまえ、病院の近くの公園でマツも含めて三人で話したじゃないか。俺、企画を立てたんだ、やることに決めたよ」
 学者は笑いながら言うと、ビールを口に運んだ。

 「実際、あたしも、嫌になって書道をやめたんだよ。浅見さんの気持ちは良く解るよ。この近くの小島さんの奥さん、あの人も同じ様な事情で茶道をやめたんだよ! 十年以上もやっていたのにさ、けっこう長く続けた人ほど、それがあるみたい」
 ハツエの書道の腕前はたいしたものらしい。当然、『号』も貰っている。
 ようやく、浅見には合点がいった。
 勝さん、カウンターから身を乗り出した。
 「この店の常連は皆、全面協力だ。おもしろいじゃないか、久しぶりにやるきがでたぞ!」
 勝さん、この男がやる気を出したら、いったいぜんたい、どうなるんだ。浅見は次第に不安になってきた。
 「学者、思いついたことって、このことだったんだ。しかし、この後は、いったい全体どうなるの? このまえ、『俺に任せとけ』と言ったよね。任せるのが怖くなった。設立準備委員会の会長か・・・・」
 事態は浅見の思いを離れ勝手に、どんどん進んで行きそうである。そして、絵を描いているのは、間違いなく学者だがどこまで彼が制御できるのだろうか、
かなりの疑問と不安を浅見は感じ始めていた。
 
 「今日のビールはうまいや! 実は一昨日、マツの実家に行ったんだ。今回の件でマツのおふくろさんに、全草連の『特別技術顧問』を頼もうと思ってな。ドライブインの件で俺はおふくろさんに信用があるからな。そうだ、そうだ、ビックリするな。マツのおふくろ、松澤雪路というんだ、雪路だぞ!・・・・・・・・・」
 学者はやけに機嫌がいい。学者がマツの実家をたずね、雪路ばあさんに、全草連の話しをし、協力を依頼したところ、バアサンおお乗り気で快諾したということであった。
 学者は思いだし笑いをしている。
 「いや、とにかく、雪路ばあさんにはまいったよ! 草刈り、鎌という言葉が出たとたん、おおはりきり。今の世の中まだあんな女傑がいたんだな。常磐御前も真っ青だぞ!」
「うちの、ハツエより上か?」
 勝さんおもしろがっている。
 「ハツエさんもたいしたもんだが、雪路ばあさんの域にはまだまだだ!なんていうか、無茶無茶苦茶だよ」

 この時、ハツエの眼の奥に、メラメラと燃えだした紅蓮の炎に気づいたものは誰もいなかった。

次ページへ小説の目次へトップページへ